カッコイイヨサパーク
数秒後には部屋の奥へ到達するその風を待ち受け、無意識に肌の感度が少し上がりもする。
風鈴とは、私たちが五感とイマジネーションを働かせて外界の情報を享受できるようにとデザインされた、すぐれた道具なのである。
こうした、生きている世界をビビッドに感じ取ることができる情報の道具のことを、私たちは「センスウエア」と呼んでいる。
「私たち」と書いたのは、このセンスウエアのデザインにかれこれ数年間にわたって力を注いだ「センソリウム」のプロジェクトに、私も微力ながらかかわっていたからである。
インターネットが伝え生きている世界に取り組んだプロジェクトの総称だ。
ここで私たちは、自分の感覚をグッと広げてくれる道具箱のようなサイトをネット上に立ち上げてきた。
発端は、一九九六年の元日から一年間にわたって開かれた「インターネット一九九六ワールドエクスポジションTWE96)」というネット上の万国博。
その前年、IWE96の事務局から日本のテーマパビリオンとしてサイトを制作して欲しいという依頼が、文化人萌類学者の竹村真一(東北芸術工科大学教授、プロジェクト・タオス代表)のもとに寄せられたのがきっかけだった。
竹村をプロデューサーとして、西村佳暫(プランニング・ディレクター)や上田壮一(フリーのディレクター)や私といった面々で準備作業を始めたのが九五年の夏の終わり。
それからアートディレクターの宮崎光弘や東泉一郎、編集者の小崎哲哉、あるいはプログラマーやミュージシャン、カメラマンといった異なる職能やセンスをもった人たちの参加をえて、晩秋から制作が本格化していった。
九六年元日のIWEスタート時にはまだ不揃いだった内容を次第に拡充していき、黄終的にはいくつかのサブ・プロジェクトが連なる「多島海のようなサイト」となって一年間のIWEの会期を終えた。
その後は実行委員会の承認を得て、サーバーをWIDEプロジェクトの協力のもと、独自ドメインへと移管。
その後はコアメンバーによるボランタリーなチームワークにより運営が行われた。
九七年には、オーストリア・リンツで毎年開催されているメディアアートのフェスティバル「アルスエレクトロニカ」に参加し、ネット部門で金賞を受賞するという栄誉に恵まれることにもなった。
これまでセンソリウムでは、次のようなセンスウエアをデザインしてきた。
代表的なものを紹介しよう。
直訳すれば「呼吸する地球」ということになるが、このページにアクセスすると現れる地球上のボコボコとした泡のようなものは、全世界で発生している地震である。
ブリージング・アースでは、地球上の地震の発生データ二週間分をアニメーションという表現に変えて見せている。
一日は二コマ分、二週間で三〇コマのアニメを、アングルを変えて見ることができる。
ざっと説明すると、こんな仕組みで動いている。
地球上の一五〇ヵ所あまりに地震計を設置してそれらの観測データを常時収集・分析し、地下核実験を監視する組織にIDCがある。
センソリウムのサーバーでは、このIDCのウェブサイトで公開されている観測データを一日に一回、プログラムを走らせて自動収集し、取ってきたデータをもとに別のプログラムが地球上に泡立つ地震をCGに可視化している。
したがって、アクセスすればその日から過去一四日分の、息づく地球の姿が眺められるわけだ。
IDCからセンソリウムが取得するデータは専門家の分析により地震として確定される以前の「生」のデータであり、可視化される振動は必ずしも正確に地球上で起きる地震を反映させているわけではない。
同じように、地震をしめす半球状の膨らみの大きさもマグニチュード値を厳密に表わしてはいない。
つまり、これは純粋な意味での科学的視覚化ではない。
むしろ、私たちがここで腐心したのは、いまこうしてウェブにアクセスしている瞬間にも常に地球の内部はダイナミックに動き続けていること、つまり、生きている巨大な「変動体」の上に乗っかっているのが私たちの日々の生活であるという実感を、どれだけデザインに込められるのか、ということだった。
地震を、単に「防災」という見地だけからでなく、特に火山列島である日本に住む私たちにとっては自分たちが暮らす大地が生きていることの証しであるということを、何らかのかたちで表わしたかったのである。
制作の過程で、私たちは、全地球規模での観測ネットワークによって時々刻々と感知される地震が、インターネットというもう一つのネットワークによってここまで詳細に把握できるようになっていたことに深い感銘を受けたものだ。
ネットワークは地球大に張り巡らされた神経系、というのは陳腐なメタファーなのかもしれないが、私たちにとってはそれがきわめてリアルに感じられたし、この驚きを伝えてくれたインターネットという存在への敬意も込めて、かつて誰も実感しえなかった「息づく地球」を描こうとしたのである。
しかし残念なことに、ブリージング・アースは現在、元データを提供してくれていたIDCの組織形態の変更によってデータの取得が困難になり、ライブ表現は行えない状況になっている。
いずれ、別のデータ資源を活用して新たなかたちで必ず復活させたいと考えている。
インターネットのなかには、ウェブやメールのほかにも、さまざまなデータが流れている。
それらのデータには種類別に、異なる「プロトコル(約束事)」が決められている。
たとえば、ウェブへのアクセスならHTTP、ファイルを遠隔地に転送するFTP、ネットワークを構成するルーターと呼ばれる装置同士がデータの流れる経路情報を交換しあうRIP、あるいはルーター間の時刻合わせのためのNTPといった具合だ。
このネットサウンドという試みでは、異なるプロトコルのデータが行き交う様子が、音として表現される。
つまり、ネットワークが奏でる一種の「環境音楽」といってもいいだろう。
本来、ここで用いられている技術は一般向けに提供されるものとしては考えられていなかった。
東京工業大学に所属していたネットワーク研究者の大野浩之(現在は通信総合研究所)と彼の研究室の学生によって考案された「ステゾー」システムは、ネットワーク管理という純粋に工学的な目的を支援するものだった。
ネットを流れている各種のプロトコルをもったデータのパケットそれぞれに固有の音を割り振り、それをライブで出力させることにより、ネットワークの「交通状況」を直感的に把握できるようにする、というのが彼らの最初の意図だった。
センソリウムでは、大野研究室からのシステム提供と音楽家の山口優によるサウンドデザインの力も加わり、私たちがふだん感じることのできない(つまりはブラックボックス化されている)ネットワークという生きたシステムの複雑さ、多様さを感じ取ることができるような表現をつくりだそうとした。
東京工業大学の研究室のネットワークが奏でる音に、「聴診器を当てるように」耳をそばだてる。
この試みによって、私たちはネットという見えない情報空間が無機的で抽象的な存在などではなく、多くの人々のコミュニケーションのざわめきを感じられる賑やかな場所であることを発見できた。
毎年八月中旬になると見られるベルセウス座流星群のことを描いたウェブ上の絵本がこれ。
その「表紙」にあたる部分に、ディレクターの一人である上田壮一がちょっとした仕掛けを施した。
ヨサパークってなかなかですよ。結構珍しいヨサパークだと思います。
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